タレちゃん


タレちゃんとは、我が家に拾われてきた3匹目のネコのことです。
09年の9月26日の晴れた穏やかな日の午後、
タレちゃんは逝ってしまいました。
我が家に来て6年目のことでした。



タレちゃんが拾われてきた時には、
我が家には、もうすでに2匹も猫がいて、3匹目はどうかとも迷いました。
しかし、ネットで知った、とても可哀想な猫の話。
程度は違えども、そんな可哀想な猫が世間には沢山いること。
その全てを助けることはできないけれど、
もう一匹ならば助けることもできるかも。
そんな気持ちで飼い始めた、タレちゃん。
でも、助けられたのは私のほうだったのかも知れません。



飼い始めたばかりのタレちゃんは、それはとても可愛いネコでした。
しかし、足が太かったのが悪かったのか、
タレちゃんの大食感の成せる技なのか、
それとも、皆が甘やかしたのが悪かったのか、、
半年も経つと、タレちゃんは態度が横柄な立派なデブネコに成長してしまいました。

新聞を見ようと机に広げれば、自分の為の場所だとばかりにその上に寝転ぶ。
ひざに乗せてあげれば、その重さで江戸時代の拷問の様。
猫のクセに、どう聞いても鳴き声が、ワンワンに聞こえる。
冬に日に、暖房で暖かくしている部屋からでも扉を全開にして出てゆく。
朝5時でも、かまって欲しければ私を起こしにくる。
私の使っているコップに首を突っ込んで、水を飲む。
デブでお尻の始末もままならないのに、臭いお尻を私に向けてくる。

それでも、タレちゃんは私にとっては、とても可愛いネコでした。
「タレちゃん」と呼べば、どんな時でも必ず返事をしてくれます。
背中をブラッシングしてあげれば、とても気持ちよさそうな鳴き声を出します。
そんな声が聞きたいが為に、何度も名前を呼び、背中をブラッシングしてあげました。



タレちゃんに異変が起こったのは09年の春でした。
最初は、前足を震わし、次に同じ前足を引きずるようになりました。
よく見ると前足の肉球が腫れています。
早速、獣医さんに診てもらいました。
獣医さんの最初の検診では、この腫れは良性のもの。
腫れた部分を切り取れば、それで終わり。
手術で切り取ってしまえば、また、元の生活に戻れる。
そんなはずでした。

私の誕生日は8月の初め。
この日は、タレちゃんの術後の検診の日でもありました。
その日に獣医さんから聞かされた言葉は、
私にはとても冷たく響き、しかし実感が伴わない言葉でした。
再検査の結果、腫れは悪性のものであることが分かったとのこと。
しかもすでに後ろ足に転移していること。もはや手術では切り取れないこと。
このままでは、もって一ヶ月から半年の命。
人間ならば様々な治療方法もあったのかも知れません。
しかしネコの体には非常に負担になるものばかりです。
きっとタレちゃんも嫌がるでしょうし、それにより助かる可能性もとても少ないとの事。
事実を受け入れるしかありませんでした。
結果として、今までで生きてきた中で、一番悲しい誕生日となってしまいました。



夏休みとなり、タレちゃんの前足の術後の経過も良好。
タレちゃんはいつもと同じように、気が向くままに、
好きな時に、好きな場所で、好きな事をしていました。
しかし、両方の後ろ足も腫れ始め、血も噴き出し、食も細くなっていきました。

夏休みの最後の日の夜遅く、
いつもならばタレちゃんは、自分の寝場所で寝ているはずの時間でした。
けれど、その日に限っては私の枕元にやってきて、なにやら鳴いています。
頭と体をなでてやると嬉しそうにし、やがて、自分の寝場所に戻っていきました。
はたして、お別れを言いに来たのか、お礼を言いに来たのか、
それとも、単に気が向いただけなのか、、、、
その時には、よく分かりませんでしたが、今思えば、きっと、
夏休み中、悲しそうにしていた私を励ましにきたんだと、そう、思えます。
思えば、タレちゃんは、そんなネコでした。

好物のカニカマも食べることが出来なくなり、
後ろ足を引きずるタレちゃんを見ていると、
獣医さんにお願いして楽に逝かせてやるべきなのか、ずいぶん悩みました。
できるだけ長い間、一緒にいたい。できれば我が家から逝って欲しい。
しかし、それは私のエゴなのかもしれない。
ネコは何をして欲しいのか、何も言いません。
だから、飼い主が決めるしかありません。
「求めてくる限り最後まで精一杯の愛情を注ぐのが飼い主の勤め。」
ネットで見つけた、その言葉に救われた気がしました。
タレちゃんは日に何度も、頭をなでて欲しいと、
私のところに痛いはずの足を引きずってやって来る。
そうして来る限り、愛情を注いであげるのが、
私が今しなければならないこと。そして、したい事なんだと、分かりました。
今でもそれは、正しいことだったと思っています。



その日。朝からなんとなく予感がありました。
タレちゃんは、私の周りで、
3歩、歩んでは寝転び、4歩、歩んでは休憩を繰り返し、
しかし、私の部屋からは出ていきませんでした。
ふと、タレちゃんを見ると窓の外をじっと眺めています。
もはや、足が痛くて窓の縁にもベランダにも行けなくなってしまったタレちゃん。
きっと、外が見たいのだろうと、抱きかかえ、窓の外を見せてあげました。
9月の最後の土曜日とはいえ、その日は暖かで穏やかな日。
ベランダに出てみると、とても気分がよい日でした。
それでも、弱った体には悪いだろうと思い、直ぐに戻ろうとした時、
タレちゃんが名残惜しそうに首を伸ばして外を眺めています。
私は、しばらくは、そこにいる事にしました。
タレちゃんは、本当に嬉しそうな顔をしていました。

タレちゃんを布団に寝かせてあげ、
寝返りをうつ度に体を撫でて上げ、
尻尾を振る度に頭を撫でてあげました。
最後に頭を撫でてから、二、三分後、呼吸が止まっているのに気づきました。
そばにいた私が気づかない位の、とても穏やかで静かな最後でした。


世間には突然愛するペットを失い、途方にくれる飼い主さんも沢山いると聞きます。
その人たちに比べれば、私は幸せなほうだったのかもしれません。
二ヶ月とはいえ、最後の時を、ともに過ごすことができたからです。
そう考えると、私の誕生日に聞いた診断結果は、タレちゃんからの、
最後の時を大切にしなさいという、誕生日プレゼントだったのかもしれません。


長文、駄文、すいません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
書くことで悲しい気分も落ち着いてきます。


タレちゃん、本当にありがとうね。
そして、またいつか、どこかで、必ず会おうね。





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